空の芸術家
飛行機の乗客は機内で動きやすいように通路側の席を取る事が多い。
だが僕はその逆でいつも窓際の席を狙う。雲海を見るためだ。
人間が決して造形できないような雲の形に文字通り息を呑む。
その度にふと思う。空の上には誰か住んでいるのではないか、と。
どんな姿かと毎回想像もしてみる。オーバオールのジーンズを着た峻厳な顔をした白い髭の老人がいつも浮かぶ。
二度、同じ姿の雲海に出会うことはない。この芸術家は相当偏屈で納得いかない作品は全て壊してしまうのだろうか。
そして彼はいつもいない。もしかしたら人見知りなのかもしれない。
今回も彼のいない仕事場を抜けて僕は目的地を目指す。
不意に思い出す。僕がいつも思い浮かべる老人はテューリンゲンの小さな村で知り合った彼だったことを。