昭和-平成 反省会
「あぁ、気にしなくていいよ笑 吸殻捨てるだけだし。」 知らないおじさんは僕に言った。
新元号発表直前、数日前にタイから帰国後風邪を引いた僕は眠れず散歩がてら近くのコンビニにタバコを吸いに来ていた。
友達と元号の案を出し合いどれが当たるかなどとやってきた時にトラックが駐車場に停まりおじさんが近づいてきたので席を開けて火をつけてあげようとした時に向こうが先にそう言った。
彼も僕の座っていたベンチの隣に腰掛け一本火をつける。
僕は少し気まずくなって
「次の元号はどうなるんですかねぇ。」
などと話しかけてみた。
彼は少し驚いて、そして凄く親しみある笑みで、
彼は運送業だったが色々教えてくれた。
昭和から平成の時はコンビニのネオンが自主消灯し、街が真っ暗だったこと。団地で騒ぐ子供の声が聞こえなかったこと。などなど
それは今のムードからはとても考えられなかった。
そこから平成を遡るささやかなな会が始まった。彼はまるで1人言の様に僕が知らない平成や昭和を話してくれた。
バブル時代は週末の3日のバイトで40万稼げたこと。
リーマン・ショックの直後高速のタクシーが激減した事。
僕じゃなくて遠くを見るその視線は自分が青春時代を過ごした時代に思いを馳せているようで独り言のようだった。
少し浮世離れしたその姿は僕のお世話になった予備校の恩師を思い出させた。
僕が昭和や平成の色々な話をしたら勤勉な学生だと褒めてくれた。
大学はどこかと聞かれて、場所を答えるとそこは昔陸軍のスパイ養成所だった場所だ。
だから秘密の地下壕があるかもよ、と教えてくれた。
その場に定まった元号は無かった、互いの生きた時間をぐるぐると行ったり来たりしていた。
それがとても心地よい時間だった。
彼が家に帰ることになり何故か令和でも頑張りましょう、また会いましょうと言って別れた。
加えた煙草に火をつける。煙草の先からゆらゆらと昇る煙と共に自分が産まれて物心ついてから今にいたるまでの思い出が浮かんでは消えていく。
次の元号がどうなるのかはその時はまだ分からなかった。
でも令和から次の元号に変わる時、僕の知らない時代を教えてくれた彼のように若い世代の人とベンチに並んで話がしたい。そう思った。
「僕が若い頃はまだ平成だったんだ。その時はね…。」
彼のように語る年老いた自分を想像した。
その想像も煙と共に空に消えた。
僕は吸ってた煙草を灰皿で消して。
コンビニを後にした。