深夜特急の巡礼者
「深夜特急」
この本の名前をご存知だろうか。少し年配で旅好きの方にはちょっと特別な響きがあるかもしれない。
ノンフィクション作家の沢木耕太郎氏が自身の体験を基に書かれた作品だ。友人と賭けの末、インドのデリーから主人公が乗合バスでロンドンを目指す。無謀といえば無謀な物語だ。
タイに行った時のこと。日程上長時間の移動を覚悟していた僕は深夜特急を1冊だけ持って行った。目的地まで一人の旅だったけどいつも隣に先人がいた気がした。心強かった。
タイでの滞在の間に荷物に揉まれたり、水を垂らしたりと気づけば深夜特急はボロボロになってしまった。
でも僕は悪い気はしなかった。寧ろ、ボロボロな方が深夜特急本来の姿であるような気さえした。
この本は書棚に小綺麗に収まっているよりも旅に出て持ち主と様々な出会いをした方が良い。そう信じてやまない。
今日も世界の何処かでこの本と共に僕のような若者が知らない街で不安そうに歩き回っているのだろうか。
彼もまたこの本に魅せられて深夜特急に飛び乗ったのだろう。僕には何となく聖書を片手に聖地を目指す巡礼者の姿と重なった。
ただ彼らに聖地は、無いのだけど。